残業中に食べていいもの、ダメなもの
Wedge 残業中に食べていいもの、ダメなもの 佐藤達夫 (食生活ジャーナリスト)
会社で夕食をすませてしまうか、帰るまで我慢するか
健康のためには「規則正しい食習慣」が好ましいことは、多くの人が知っている。もちろんビジネスパーソンだってこれくらいはご存じのはず。しかし、わかってはいても、いつも同じ時間には食事を食べられないのがビジネスパーソン。とりわけ夕食を決まった時間に食べるのは至難の業。
「そんなことはわかってる。好きで残業してるわけじゃないんだ!」と叱られそうだ。夕食の時間になっても外出中であったり、仕事の締め切りに間に合わなかったりして、残業をせざるをえないというケースが多いのだろう。そんなとき「帰宅がかなり遅くなるのを承知で、思い切って夕食を食べてしまう」か「食べずに我慢して仕事を少しでも早く終わらせて、退社後にゆっくりと夕食を食べる」かの判断を迫られる。
健康との兼ね合いからいうと、このいずれもが、あまり好ましくない。仕事の途中で食べる夕食は、その内容を吟味できることは少なく、ラーメンやカレーや牛丼などの、いわゆる「一皿物」になってしまうことが多いだろう。一皿物の問題点についてはこのコラムの第6回を読んでほしいのだが、カロリーが多い割には満足感が低く、かつ、摂食時間が中途半端なために、その日のうちにもう1度食事をすることになる可能性が高い。この「寝る前の2度目の夕食」が肥満の元になるし、さらには、翌日の朝食を食べたくなくなるなどの生活習慣の乱れにつながる。
逆に、食べずに仕事を続けるとどうなるだろうか? 食事をしない時間が長くなると、血糖値(血液中のブドウ糖量)が低くなる。食事量が(食事回数が)多すぎて高血糖状態が長く続くと糖尿病などの原因になるので好ましくないが、かといって逆に低血糖状態が長くなりすぎるのも好ましいとはいえない。脳細胞は血液中のブドウ糖(つまり血糖)しかエネルギー源として利用できないので、低血糖状態では頭の働きが悪くなる。せっかく残業をしていても、能率が悪かろう。また(こちらのデータは持ち合わせておらず、個人の経験によるところが大きいのだが)人は空きっ腹で、そして「早く帰りたい」という焦った気持ちで仕事をすると、作業効率が悪くなるのではないか。ミスも多く、業務に差し障りも出るのではなかろうか。
「主食になる物」を少しだけお腹に入れる
どうしても残業を避けることができないのであれば、ふだん夕食をとる時間くらいに「軽く何かを食べる」ことをお勧めする。「軽く」というところがポイントになるので、近くのコンビニで購入できる物か、買い置きできる物に限られる。もちろん調理の必要な物は不可(せいぜい電子レンジでチンくらい)。
内容的に重要なことは(栄養成分でいうと)糖質を含んでいること。糖質というのは「食物繊維以外の炭水化物」のこと。けっして「甘い物」という意味ではないので注意! 食べ物でいうと「主食」になる物。つまりはご飯・パン・麺類のこと、いも類にも糖質は多い。
今「食物繊維以外の炭水化物」と書いたが、食物繊維が悪い栄養成分であるという意味では、もちろん、ない。むしろ食物繊維は、日本人にとって不足している栄養成分なので、普段の食事では積極的に摂取したい栄養成分である。ただし、残業時の「軽く食べる何か」というときの栄養成分としては必須条件にはならない(と私は考える)。ポイントは「血糖値を上げる」ことができる食べ物。
具体的にはおにぎり。小さめの物を1つ、よく噛んでゆっくり食べる。具はどんな物でも(好きな物で)よし。こんなところ(おにぎりの具)で栄養バランスを考慮しなくてもいい。次にお勧めするのはサンドイッチ。これも、同じ理由で、間に挟んである具材は何でもいい。肝心なことは糖質(の中のデンプン)を少しだけお腹に入れること。
残業が毎日続き、おにぎりとサンドイッチだけでは飽きてしまうようなら(コチラは労働環境のほうが食事内容よりも大きな問題だが)小さなカップ麺でも可としよう(ただし「小さな物」に限るし、汁を残すこと!)。
「バナナを常備しておく」という奥の手
私の「イチオシ」はバナナ。バナナは、速やかに血糖値を上げる単糖類(果糖など)を少量含み、やや時間をおいて血糖値を上げる二糖類(砂糖など)を適量含み、そのあとにじっくりと血糖値を上げる多糖類(デンプンなど)をしっかり含んでいる【※】。脳や身体への「簡便なエネルギー補給源」としてきわめて優れた食品である。テニスプレイヤーなどがゲーム中にバナナを食べているのには、きちんとした理由がある。
比較的保存も利く。嫌いでなければ、机の引き出しやロッカーに常備しておいてはどうだろう。これは私の「奥の手」であり、サラリーマン時代(『栄養と料理』編集者)に実践していた。さて、残業時に「主食になる食べ物を少しだけ補充」した場合に注意しなくてはならないことがある。それは、その日の「本来の夕食」のとき、「残業時に少量の補充をしたこと(と補充をした物)」を忘れてはならないことだ。往々にして、それを忘れて、普通の量と内容の夕食を食べてしまうことが多い。もちろん、それでは「食べすぎ」になるし、糖質のとりすぎという「偏り」も生ずる。主食の役割をする物(ご飯・パン・麺類)を食べてあるのだから、夕食時にはその分だけそれを減らすこと。おにぎり1つはだいたいご飯1杯分と換算する。バナナ1本はだいたいご飯半杯分と考えよう。
【DR大友の視点】
食生活ジャーナリストの佐藤達夫氏は過去の著作からすると総カロリーを大事にされているようです。栄養はバランスよくというテーマです。
でもDR大友はそうは思いません。
体型に応じて食事を選ぶべきだと考えます。
痩せ型~ふつう体型の人はバランス良い食事でもいいかもしれないけど、太っている人はそれではダメダメです。
不用意に糖質を食べてはいけません。
何故って?
答えはインスリン抵抗性にあります。
太っている人は多くの場合、インスリン抵抗性があるために糖を摂っても有効に使うことが出来ないのです。
だからすぐに糖を補給しても、体内で糖を利用することが出来ずに追加の糖を欲しくなるのが関の山です。
インスリン抵抗性がある人の間食はどうしたらいいのか。
その答えは’’食物繊維’’と’’ミネラル’’にあります。
この2つが足りない人はインスリン抵抗性を引き起こしやすいのです。
そういった観点からは食物繊維が豊富でミネラルも豊富なものが間食には有用ということになります。
これ以上糖を増やしても意味がないので低糖質で。
それが当てはまるのはモズクや落花生、大豆などの食物繊維もミネラルが豊富な食品。
ここで注意が必要で小豆、ひよこ豆、金時豆は糖質が多いので豆だから全部いいというわけではないことには注意を払う必要があります。
もう一つ大事なことは胃腸への負担を減らすためには寝る2時間前に食事を摂り終えること。
残業も大事だけど、これは重要な鉄則だから覚えておいて欲しい。
〔大友“ピエール” 博之〕
日本のみならずロサンゼルス、フランクフルト、香港、バンコクに拠点を持ち、個別化医療(precision medicine)を実践している。免疫栄養学に基づいた食事指導、ホルモン補充療法、運動療法を取り入れた治療で定評がある。
・ 医師 日本抗加齢医学会専門医 / 欧州抗加齢医学会専門医 / 日本麻酔科学会専門医
・ 西洋薬膳研究家、シェフドクターピエールとしても活躍中
・ 渋谷セントラルクリニック代表
・ 一般財団法人 日本いたみ財団 教育委員
・ 一般社団法人食の拠点推進機構 評価認証委員/食のプロフェッショナル委員
・ 料理芸術や食の楽しみといった価値感を共有するシェフなどが集う日本ラ・シェーヌ・デ・ロティスール協会のオフィシエ
・ ワインにも造詣が深く、フランスの主要産地から名誉ある騎士号を叙任している。
シャンパーニュ騎士団 シュヴァリエ / ボルドーワイン騎士団 コマンドリー /ブルゴーニュワイン騎士団 シュヴァリエ