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帝王切開の子どもには膣播種をすべき? デンマーク産婦人科学会が「すべきでない」

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2017/8/29 19:30 JCAST ヘルスケア

帝王切開の実施率が高い欧米で、生まれたばかりの新生児に母親の持っている腸内細菌などを与えるため、新生児の皮膚に膣液を擦りつける「膣播種」と呼ばれる行為が流行しているという。
しかし、実際に何らかの効果があるかは不明で安全性も疑問視されているため、英国や豪州の産婦人科学会が2016年に英国医師会誌で警告を発表。
2017年8月22日にはデンマーク産科婦人学会がリスク調査の結果を公表し、「実施すべきではない」と報告した。

帝王切開だと細菌叢が未熟?

「膣播種」が流行する要因となったのは、2014年に「帝王切開で生まれた子どもは喘息やアレルギーなどの炎症性疾患のリスクが高い」とする研究が発表されたためだ。

一部の研究者らは、帝王切開の子どもは母親から移入した有用な細菌の数が少なく、そのせいで腸内細菌叢などの形成に影響を与えているのではないかと指摘。帝王切開で生まれた新生児の顔や体に、綿棒で採取した母親の膣液を塗布するという実験を行ったところ、母親の細菌叢が子どもにも移入できたとしていた。

欧米では帝王切開の実施率が高く、英国では25~30%、デンマークも15~25%。帝王切開が子どもに与える影響を気にする親は少なくない。
今回調査を実施したデンマーク産科婦人学会も、

「(デンマーク国内の)産婦人科医の90%以上が出産を予定している両親から膣播種の有効性を確認された経験があった」

とし、学会として正確な効果やリスクを検証する必要があると考えたとしている。

そして検証の結果わかったのは、膣播種に関する研究は前述の実験1例のみで、その被験者数はわずか4人。さらに膣播種の効果は検証されておらず、あくまでも母親の細菌叢と同じ細菌が子どもにも移ったかを確認したのみだった。

調査を行ったデンマーク、ノアシェラン病院のティネ・クラウセン医師は8月23日付のBBCの記事の中で「膣播種を行うことは一見自然を模倣するかのような魅力的な手法に思えるが、実態は何の裏付けもない行為」とコメント。さらに次のように話している。

「綿棒には出産時とまったく同じ細菌が含まれていない可能性があり、繁殖中に膣内の血液や羊水のために細菌がより希釈されている可能性もあります。とても何らかの効果があるとは考えられません」
それどころか、新生児が大腸菌やその他の有害な細菌、性感染症などに感染するリスクを上げているという。

メリットはなくリスクしかない

こうした結果を踏まえ、デンマーク産婦人科学会は「現時点では(膣播種に)期待されている何らかの効果が、潜在的なリスクを上回ることを示唆する証拠はない」と結論付け、「有害ではなく新生児の消化器・免疫系にポジティブな改善効果があるという決定的な研究が発表されるまで膣播種は推奨されない」とした。

では帝王切開で生まれた子どもには、どのようなことをすれば不足していると思われる細菌を安全に補うことができるのか。デンマーク産婦人科学会は「一般的な肌の接触で十分効果があることはエビデンス(科学的な根拠)が確立されている」としている。

例えば母乳育児は母乳や母親の肌との接触を通して、細菌が子どもに移入されることがわかっている。また同学会は新生児と母親の一般的な肌の触れ合いでも、十分に効果が期待できるとし、母子接触の時間を十分確保するよう呼びかけている。

【DR大友の視点】

『帝王切開の子どもには膣播種をすべき?』の記事を即座には理解できる人は少ないのではないかと思います。
この議論の前提になっているのはクロアチアのメルクール大学の研究報告があるからです。

『帝王切開で生まれた赤ちゃんは、お母さんの産道や直腸に存在する善玉菌を受け継ぐことができずに、悪玉菌が受け継がれやすい』
『帝王切開で生まれた赤ちゃんの腸内フローラはビフィズス菌が少ないため、糖尿病患者の腸内フローラに近い状態である』
最近話題になっている通り、腸内環境は免疫力の70%近くを決定するのではないかという報告もあります。

人間は年を取るにつれて善玉菌が減ってくることが知られています。
ただこの報告は帝王切開で生まれてきた子は最初から腸内環境が悪いと思われるので、どうにかして膣を通して生まれてきた赤ちゃんと同じにできないかと考えているわけです。

少なくとも帝王切開で生まれてくる赤ちゃんの腸内環境が理想的ではないということが示唆されているわけですから、これは意味がないといって切り捨てるのではなく何か良い方法を考えるべきだと考えます。
そういった意味で面白いフィンランドの研究があります。Kalliomäki M. et al.: Lancet. 2001 Apr 7;357(9262):1076-9

それは母体の腸内環境を変えることで、生まれてくる赤ちゃんにいい影響を与える可能性があるかもしれないというものです。
① 家族にアトピー症状のある妊婦150人以上を2グループに分け、一方にはLGG乳酸菌入りのカプセルを、もう一方にはプラセボ(偽薬)を飲ませるという実験
② 2年間に渡る追跡調査の結果、乳幼児のアトピー発症率は、プラセボを飲ませたグループでは46%、乳酸菌を飲ませたグループで23%と半減

妊娠中に乳酸菌で腸内環境を変えることによって、生まれてくる赤ちゃんのアレルギーを解消できる可能性があるということでした。
生まれてくる赤ちゃんが健やかに育つようにお医者さんも色々と頭を悩ますべきではないでしょうか?

 

〔大友“ピエール” 博之〕

日本のみならずロサンゼルス、フランクフルト、香港、バンコクに拠点を持ち、個別化医療(precision medicine)を実践している。免疫栄養学に基づいた食事指導、ホルモン補充療法、運動療法を取り入れた治療で定評がある。

・ 医師 日本抗加齢医学会専門医 / 欧州抗加齢医学会専門医 / 日本麻酔科学会専門医
・ 西洋薬膳研究家、シェフドクターピエールとしても活躍中
渋谷セントラルクリニック代表
・ 一般財団法人 日本いたみ財団 教育委員
・ 一般社団法人食の拠点推進機構 評価認証委員/食のプロフェッショナル委員

・ 料理芸術や食の楽しみといった価値感を共有するシェフなどが集う日本ラ・シェーヌ・デ・ロティスール協会のオフィシエ
・ ワインにも造詣が深く、フランスの主要産地から名誉ある騎士号を叙任している。
 シャンパーニュ騎士団 シュヴァリエ / ボルドーワイン騎士団 コマンドリー /ブルゴーニュワイン騎士団 シュヴァリエ    

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