

夏目漱石は胃潰瘍になった後に何を食べれば良かったのか?
夏目漱石の死因が胃潰瘍だったことはご存知でしょうか?
胃潰瘍、胃がんなどの原因として、ピロリ菌との関連性が極めて高いことが知られています。
漱石はヘリコバクターピロリ菌にも感染していたとも言われています。
ちなみに細菌の一部がヘリコプターの羽のような形をしているので、ヘリコバクターと命名されています。
通常、胃の内側には胃の粘膜が張り巡らされており、強い胃酸から胃自身を消化してしまわないよう守っていますが、ピロリ菌はこの粘膜の働きを弱らせる作用をするため、胃の粘膜が傷つき、胃潰瘍を引き起こします。
ピロリ菌の感染は決して珍しくなく日本人全体の約半数が感染しています。高齢者では半数以上が感染していますが、20代以下では10~20%くらいとジェネレーションギャップがあります。
ピロリ菌は免疫力が十分ではない幼児期に飲食物を介して感染しますが、最近の若い世代が感染しにくいのには衛生環境の向上が理由だと思われます。例えば井戸水を飲む人が減ったことや冷蔵庫が普及して新鮮で清潔な食べ物がアクセスしやすくなったことも理由の一つだと思います。
腹痛や腹部膨満感(お腹が張る感じ)などが生じることもありますが、多くのピロリ菌感染者は無症状で、感染に気付かないまま生活を続けています。もし検診や内視鏡をしてピロリ菌陽性と診断されたなら、ぜひ除菌治療を受けてくださいね。
では、漱石のようにストレスやピロリ菌が原因で胃の調子が悪くなって『胃がキリキリ痛む』ようになったらどうすれば良いのでしょうか?
慢性的にストレスを抱えると胃酸が持続的に分泌され、胃や十二指腸の粘膜が傷ついてしまいます。胃の動きは自律神経によりコントロールされているため、ストレスがたまると自律神経のバランスが崩れ、胃は正常な消化活動ができなくなるからです。
また、食べ過ぎて胃がもたれるのは、胃で消化された食べ物がなかなか十二指腸へ送られず胃に居残ってしまうためです。
そんな場合はどのようなお食事を食べるのが良いのでしょうか?
以前は、消化への負担を考え制限食が推奨されていましたが、厳重な制限食は胃が空っぽになることで胃酸分泌を促し、潰瘍の治癒が遅れてしまうことがあるため、現在では潰瘍からの出血時を除いて、できるだけ早く高エネルギー・高たんぱく質の食事から十分な栄養素を補給し、潰瘍の治りを早くすることが重要だというように認識が変わって来ています。
たんぱく質は、体に必要な必須アミノ酸を多く含む食品で、消化の促進を考えて脂肪の含有量が少ない食品を選ぶことが大切です。
また糖質は、食物繊維を除けば胃酸分泌を促進することは少なく、他の栄養素と比較して胃内の停滞時間が最も短いため、胃・十二指腸潰瘍の栄養管理におけるエネルギー補給という点で適しています。
潰瘍による創傷治癒の観点から亜鉛の付加が必要であり、出血に伴い鉄欠乏性貧血を起こしていることも多いため、鉄分の補給も考える必要があります。
具体的な食品の選択としては、脂の少ない白身魚や鶏肉のささみ、牛乳、卵など胃内の停滞時間が短く消化が良い食品や、チーズなど少量で栄養価が高い食品を取り入れ、アルコールやコーヒー、炭酸飲料、香辛料、酸味の強い食品、高脂肪食品など胃の運動や胃酸の分泌を促進する食品は避けます。
早食いを避けて、よく噛んでゆっくり食べることや食事のリズムを規則正しくすることなども大切です。
今日も最後までご覧くださいましてありがとうございました。
もう少し赤ら顔とピロリ菌の関係をお知りになりたい方はこちらをご覧ください。
大友博之 渋谷セントラルクリニック エグゼクティブ ディレクター
日本抗加齢医学会専門医、日本麻酔科学会専門医、日本医師会認定産業医、国際抗加齢医学会専門医(WOSAAM)
免疫栄養学に基づいた食事指導、ホルモン補充療法、再生医療、運動療法を取り入れた新しい統合医療をベースにした診療で著名人にもファンが多い。最先端の西洋医学に通じている一方で、「鍼治療の魔術師」と呼ばれるほど鍼治療の名手で東洋医学にも造詣が深い。
またワインと健康食の愛好家しても名高く、ボルドー、ブルゴーニュ、シャンパーニュのワイン騎士団から名誉ある「シュバリエ」を叙任されているほか、料理芸術や食の楽しみといった価値感を共有する美食家が集う日本ラ・シェーヌ・デ・ロティスール協会の「オフィシエ」でもある。