

春を告げるワインと恵方巻
メルルのさえずりとメルロー
明日は立春、という節分の夜。
豆まきをし、邪気を払ったあとは、恵方を向いて黙って食べる恵方巻。
そんな特別な夜に、今年はちょっと趣向を変えて、一本の赤ワインを添えてみました。
その名も「カントメルル(Château Cantemerle)」。
「メルルのさえずり」を意味する美しい名前を持つこのワインは、春の訪れを象徴する存在として知られる“メルル(merle)”という鳥にちなんでいます。
メルルは、特にフランスなどヨーロッパ各地で春を告げる鳥として親しまれており、森や庭でそのさえずりを耳にするようになると、長い冬の終わりを感じさせてくれる存在です。
さらに面白いことに、赤ワイン用のブドウ品種として広く知られる「メルロー(Merlot)」も、このメルルに由来していると言われています。
黒く熟したブドウの実を、メルルが好んでついばんでいたことから、その鳥の名がブドウの名前になったという説があるのです。
鳥とブドウ、自然と人間の営みが思わぬ形で交差するエピソードは、ワインにまつわる物語に一層の味わいを加えてくれます。
恵方巻とメルローの相性
寿司に赤ワインという組み合わせに驚く方もいるかもしれませんが、メルローの柔らかなタンニンと甘く炊かれた恵方巻の具材実によく合うのです。
甘辛いかんぴょう、優しい甘さの玉子焼き、しっとりとした椎茸の煮物、そして時には鰻や桜でんぶ。
こうした複雑でやさしい味のハーモニーに、メルローの丸みを帯びた口当たりと熟した果実味が見事に寄り添います。
また、海苔のほのかな香りや酢飯の酸味も、ワインの風味と互いに調和し、どちらかが主張しすぎることなく、落ち着いた味わいを生み出してくれます。
寿司と赤ワイン、特にメルローとの組み合わせには、まだまだ探求の余地がありそう。
ネタや酢飯の味付け、巻物の種類、ワインの産地や熟成度によって、さまざまなマリアージュが生まれることでしょう。
まるで春の訪れを告げるメルルのさえずりのように、私たちの食卓にも軽やかで心地よい変化が訪れるかもしれません。
〔大友“ピエール” 博之〕
日本のみならずロサンゼルス、フランクフルト、香港、バンコクに拠点を持ち、個別化医療(precision medicine)を実践している。免疫栄養学に基づいた食事指導、ホルモン補充療法、運動療法を取り入れた治療で定評がある。
・ 医師 日本抗加齢医学会専門医 / 欧州抗加齢医学会専門医 / 日本麻酔科学会専門医
・ 西洋薬膳研究家、シェフドクターピエールとしても活躍中
・ 渋谷セントラルクリニック代表
・ 一般財団法人 日本いたみ財団 教育委員
・ 一般社団法人食の拠点推進機構 評価認証委員/食のプロフェッショナル委員
・ 料理芸術や食の楽しみといった価値感を共有するシェフなどが集う日本ラ・シェーヌ・デ・ロティスール協会のオフィシエ
・ ワインにも造詣が深く、フランスの主要産地から名誉ある騎士号を叙任している。
シャンパーニュ騎士団 シュヴァリエ / ボルドーワイン騎士団 コマンドリー /ブルゴーニュワイン騎士団 シュヴァリエ