② パーキンソン病になる前には匂いが感じにくくなる。それに夜の夫婦喧嘩が増える??
Dr.大友 渋谷セントラルクリニック エグゼクティブ ディレクター
パーキンソン病は筋肉の動きが悪くなると言う話ですが、もともとはどこの病気なんですか?
Dr.余郷 曙ホームクリニック院長
脳の病気です。
脳にαシヌクレインと言う老廃物が溜まってきて、それがレビー小体と言う顕微鏡で見える物質になってきます。そして中脳の黒質と言うメラニンがあるところで黒く見えるところに溜まってきます。普通の人は黒質は黒いのですが、パーキンソン病の人では白いような状態です。こうした状態を変性と言い調子がいつもと違う状態になってしまいます。
その神経と言うのは線条体(せんじょうたい)と言うところに伸びていて、そこの機能が悪くなってしまうことによってカラダの微調整ができなくなります。例えばカラダの硬さの調整がおかしくなってくると硬くなってきたり、震えを抑えるような経路がおかしくなってくると震えがが出てきたりと運動の症状が出てきます。
最近ではαシヌクレイン、レビー小体というのはどこから出てくるのかと言うことがすごく注目されていて、最初に出てくるところは腸と鼻じゃないかとされています。
Dr.大友
腸と鼻!腸とは腸管の腸ですね。
Dr.余郷
腸管の腸ですね。
先ほどパーキンソン病の人は便秘が多いと言う話をしました。あとはパーキンソン病には匂いが分かりにくいと言う症状があります。
パーキンソン病の運動症状の震えやカラダが硬いと言うことよりも数十年前ぐらいから便秘や匂いがわかりにくいということがあり、そういうところから病気が始まっているのではないかと言われています。
Dr.大友
それは鼻の嗅覚が落ちているのか、鼻に何か炎症が起きていて嗅ぎにくくなっているのか?どういう感じですか?
Dr.余郷
鼻に炎症自体は起きていないですね。嗅神経、匂いの神経の変性が起きていると言うことです。
Dr.大友
便秘の場合はどうなんですか?
例えば腸内環境が脳と関係していると言う話も最近話題ではあるわけですけど。それが原因なのか、それとも症状として先に出ているようなイメージ、どちらなんですか?
Dr.余郷
まだはっきりしてないところがありまして、そこも進行形で研究が進んでいます。パーキンソン病の人の腸内細菌の異常を調べている人もいますし、そこがやはり原因になっているのではないかと言うようなことを少しでも示してあるようなデータと言うのが出てきています。その中の一つで最近多く聞かれるのは虫垂炎ですね。
Dr.大友
盲腸。
Dr.余郷
盲腸を切るとなりにくくなると言うデータが出たり、そうじゃないと言うデータも出ていますが、腸の炎症が少なくなるとパーキンソン病になりにくくなるかもと言うことを考えているのかもしれません。
Dr.大友
なるほど。
Dr.余郷
もう一つ明確なデータとして出てるのは胃になりますが、胃潰瘍で胃の神経を切る手術が昔ありました。迷走神経切除術と言いますが、それをするとパーキンソン病になるリスクが下がると言うデータが沢山の人数で出てます。やはり腸とか胃とか、脳よりも先の部分でスタートしていたり、そこの炎症とかそういうものを押さえてあげることで発症リスクが下がるのではないかなと言う方向に研究が進んできていると思います。
Dr.大友
なるほど。とはいえ、胃の迷走神経を切ってしまうと胃液が出なくなりますから食べられなくなってしまいますものね。
Dr.余郷
そうですね。
Dr.大友
そうならない何か良い方法を考えるわけですよね。
Dr.余郷
そうですね。パーキンソン病にならないために胃の迷走神経を切ってしまうのはやはりできないと思いますので、他の病気があってそういうことをした結果と言うのが今のところですね。
Dr.大友
消化器の機能と言うのも重要ですが、実は匂いを感じないと言うのが一番の前駆症状かもしれないという話もありますよね?
便秘の人とか胃の調子の悪い人は沢山いますが、匂いを感じにくくなったと言うのはそんなに皆さんが経験することではないような気もします。
Dr.余郷
そうですね。初診の時にはどんな症状かをお話すると、だいたい皆さん手が震えちゃうんですとか、歩くのに時間かかるとか、お子さんから歩くのが遅くなったと言われたとか、ちょっと仕事が辛くなってきたとかを訴える方が多いです。
そういった際に、私自身または他の神経内科専門医が問診することの一つに’匂いはどうですか?’があります。そうすると私匂いがわからないですと言う方が多いです。例えばトイレの匂いや靴下の匂いとかわからないと言う方が多くいらっしゃいます。
Dr.大友
嫌な匂いを感じないのは良いのですが、良い匂いも感じなくなる、食べ物の匂いも感じなくなる実感はあるんですか?
Dr.余郷
あると思います。美味しく感じなくなったと言う方もいらっしゃいます。パーキンソン病の客観的な診断の一つのデータとして匂いは使われていて、十数個の匂いを嗅ぎ分けてもらうテストがありますが、花とかみかんとかほとんど答えられないんですね。
Dr.大友
匂いを感じなくなってくるというのは、手が震えたりする症状のずっと前に出てくるということですので、パーキンソン病の前駆症状として覚えておいた方が良さそうですね。
Dr.余郷
ただ耳鼻科的に例えば蓄膿症や花粉症とかそういったものでも匂いがわからなくなることもあるので、匂いがわからないと言うことは注意すべき点ですが、それだけで自分はパーキンソン病になるのではないかと思うのは時期尚早かもしれないですね。
Dr.大友
例えば匂いを感じられないと言う時に検査をすると、パーキンソン病かどうか怪しいと今の段階でわかるものなんですか?
Dr.余郷
ある程度わかりますね。
Dr.大友
匂いが感じられない症状が出てたらどんな検査をするのですか?
Dr.余郷
一つは脳のドパミン神経機能と言うのを診る脳SPECT検査があります。
もう一つは心臓のMIBG心筋シンチグラフィと言う検査があります。それはどういう仕組みかと言うと心臓を支配している自律神経にもレビー小体が出てくるので、それによって心臓の神経機能が落ちていないかを測る検査です。
そういったものをすると匂いだけ落ちているような状況の人でも異常が出てくることがあります。運動の症状が出てくる頃に脳のドパミン神経線条体の機能はどれくらいになってるかと言うとだいたい普通の人の50%ぐらいまで低下しています。
Dr.大友
なるほど。
Dr.余郷
それが運動症状の始まりなので、それよりも前の頃と言うのは相当あるわけです。
今お話しした匂いもそうですし、もう一つ前駆症状として発症リスクを予測するものがあります。それは夜中に大声を出したり人を殴ってしまう、ケガをしてしまうと言うようなレム睡眠行動異常と言う特徴的な症状があります。
Dr.大友
お酒も飲んでないのに?
Dr.余郷
普通の人は体が動かない、体が休んでるような時間(レム睡眠期)なのに筋緊張が抜けなくて隣の人を殴ってしまう。
Dr.大友
なるほど。ベッドパートナーとの関係が微妙になりますね。
Dr.余郷
結構それがスタートの人もいらっしゃいますね。
Dr.大友
匂いが感じなくなってきたり、隣の人を夜寝てる間に殴ったりするようになったらそれはかなり怪しいパーキンソン病の前兆ということですね。喧嘩をする前にちょっと心配してあげた方がいいと言うことですね。
Dr.余郷
そうですね。心配して神経内科に行こうかと言う一つのサインにはなりますね。
Dr.大友
何するのあなた!とかそういうこと言っている場合じゃなくて。
Dr.余郷
はい。結構みなさん別々のところで寝ていますとかありますね。
Dr.大友
突然殴られたら隣で寝たくないですよね。
Dr.余郷
ただそこは治療できる範囲なので、ぜひ早めに神経内科を受診して欲しいところであります。
Dr.大友
ありがとうございます。パーキンソン病になる前の症状のお話ができて良かったと思います。
大友博之 渋谷セントラルクリニック エグゼクティブ ディレクター
日本抗加齢医学会専門医、日本麻酔科学会専門医、日本医師会認定産業医、国際抗加齢医学会専門医(WOSAAM)
免疫栄養学に基づいた食事指導、ホルモン補充療法、再生医療、運動療法を取り入れた新しい統合医療をベースにした診療で著名人にもファンが多い。最先端の西洋医学に通じている一方で、「鍼治療の魔術師」と呼ばれるほどハリ治療の名手で東洋医学にも造詣が深い。
またワインと健康食の愛好家しても名高く、ボルドー、ブルゴーニュ、シャンパーニュのワイン騎士団から名誉ある「シュバリエ」を叙任されているほか、料理芸術や食の楽しみといった価値感を共有する美食家が集う日本ラ・シェーヌ・デ・ロティスール協会の「オフィシエ」でもある。
日本神経学会専門医、日本認知症学会専門医、日本内科学会総合内科専門医、日本抗加齢学会専門医、日本医師会認定産業医、日本体育協会スポーツ専門医、がん等の診療に携わる医師等に対する緩和ケア研修会終了
1979年新宿生まれ、新宿育ち。
東京慈恵会医科大学卒業
東京慈恵会医科大学大学院卒業
東京慈恵会医科大学葛飾医療センター神経内科医長