③ 緩和ケア がん誘発性体重減少
Dr.大友(渋谷セントラルクリニック総院長)
がんは二つの理由で体重が減ることを学びました。一つはがん関連性体重減少で、もう一つが、がん誘発性体重減少ということでした。
がん誘発性には代謝が関係している話でしたが、代謝といっても色々ありますよね。どのように代謝が関わるのですか。
Dr.川村(川村病院副院長)
一般的に言われているのが、がんが進むにつれてサイトカインとかホルモンが多く産生される(産生異常)ことによって、安静時の消費エネルギーが増えて体重が減るとされています。
Dr.大友
一般的なダイエットの時に基礎代謝、つまり安静時の代謝のエネルギー増やそうとします。
がん患者さんではそういう慢性的な炎症があることによってサイトカインとかホルモンの異常が起きて基礎代謝が上がっている状態になっているということですか?それで結果として痩せてしまうという理解で宜しいでしょうか。
Dr.川村
そういうことですね。
Dr.大友
糖質制限なんて言う言葉も流行っていますが、糖質はどうなんですか。
Dr.川村
糖質に関して言うとグルコースの代謝が亢進されるということと、インスリン抵抗性が増えるということが言われています。
Dr.大友
ところでなんで糖を使うんですか?
Dr.川村
がんが成長していくために糖質が必要とされるので、がんが進むにつれて糖の代謝が亢進してインスリンの抵抗性が増してくると言うことですね。
Dr.大友
がんの主要な栄養源が糖、つまりグルコースだと言うことですね。
Dr.川村
はい。
Dr.大友
がん細胞がどんどんどんどん増殖していくから、人間よりもがん細胞は多くの糖を使うことになってしまうという理解でよろしいですか。
Dr.川村
良いと思います。
Dr.大友
そういった理由でがんが糖を好むからどんどん糖が使われてしまって、結果として人間にとっては糖がうまく使われなくなるような状況が起きてしまっていることが一つ。
悪液質の時は脂肪は減ったり減らなかったりという話ですよね。
Dr.川村
そうですね。主に筋肉量が減るということで、脂肪の増える、減るは定義としてはないですね。
Dr.大友
脂肪が減るとしたらどんな時に減るんですか。
Dr.川村
悪液質の場合は得てして脂肪の代謝は増しますので、脂肪量としては減る傾向にはあると思います。
Dr.大友
少し混乱したのでもう一度確認したいのですが、悪液質の時は脂肪が減るのですか。
Dr.川村
悪液質は脂肪が増える、減るというのは特に決められてなくて、筋肉量の低下ということが主に言われています。
Dr.大友
では脂肪が減る人としては何か理由があるんですか。ストレスとか色々な理由が考えられると思います。
Dr.川村
ストレスが増えることによってアドレナリンが亢進されますので、それによって脂質が分解されてるのが増えてくるのですね。
Dr.大友
アドレナリンが増える、つまり自律神経でいう交感神経が優位になってくるということですね。
Dr.川村
そういうことですね。
Dr.大友
それは心理的なストレスってこともあるし、がん細胞がいるような体内環境そのものが酸化ストレスということで交感神経が優位になってしまってアドレナリンが増える状況になっているという理解でよろしいでしょうか。
Dr.川村
いいと思います。
Dr.大友
とはいえ、悪液質の最大の要因は筋肉量が減ることですよね。
悪液質というのは代謝が変わってくることが一つの要因だという話でしたが、どんなことがどんな風に起きてしまうのですか。
Dr.川村
がんの終末期になると炎症性のサイトカインが助長して、慢性の炎症が拡がってくるというのが一つあると思います。
Dr.大友
がんが分泌したり、がんが正常の細胞を壊したときに生じるサイトカインが悪さをすると言うことですね。
Dr.川村
そうですね。結果として蛋白質が合成が抑制されて筋肉が壊れていくということですね。
Dr.大友
(良性疾患では)慢性炎症があると、例えば免疫系(ホルモン系)に関係して男性ホルモン(テストステロン)が減ってくることもあると思います。
そういうのも骨格筋を減らす原因になりますか。
Dr.川村
男性ホルモンが減ってくると骨格筋が減ってくる原因になると思います。
Dr.大友
確かに意味もなく男性ホルモンを足すと筋肉量がムキムキになったりしてますもんね。
良いことではないかもしれないですけど、メジャーリーガーでドーピングして筋肉量を増やしている人もいます。
Dr.川村
そうですね。
Dr.大友
それ以外にお薬とかで筋肉量が減るようなことはありますか。
Dr.川村
がん性疼痛に使うフェンタニルというお薬を用いると男性ホルモンが減ることもあると言われています。
Dr.大友
がんの痛みを取り除くための麻薬の一種ですね。
フェンタニルは痛みを取るために良かれと思って投与しているけども、結果として男性ホルモンが減ることによって筋肉量が減ってしまうこともあるかもしれない。
Dr.川村
結果としてタンパクが減るということですね。
Dr.大友
なるほど。勉強になりました。
大友博之 渋谷セントラルクリニック エグゼクティブ ディレクター
日本抗加齢医学会専門医、日本麻酔科学会専門医、日本医師会認定産業医、国際抗加齢医学会専門医(WOSAAM)
免疫栄養学に基づいた食事指導、ホルモン補充療法、再生医療、運動療法を取り入れた新しい統合医療をベースにした診療で著名人にもファンが多い。最先端の西洋医学に通じている一方で、「鍼治療の魔術師」と呼ばれるほど鍼治療の名手で東洋医学にも造詣が深い。
またワインと健康食の愛好家しても名高く、ボルドー、ブルゴーニュ、シャンパーニュのワイン騎士団から名誉ある「シュバリエ」を叙任されているほか、料理芸術や食の楽しみといった価値感を共有する美食家が集う日本ラ・シェーヌ・デ・ロティスール協会の「オフィシエ」でもある。
川村雅彦 川村病院副院長
日本外科学会 専門医、日本消化器外科学会 専門医指導医、日本消化器内視鏡学会専門医指導医、日本消化器病学会 専門医、消化器がん治療認定医、日本乳がん学会 認定医、日本医師会認定産業医
‘診断から治療、看取りまで’をモットーにどんな時も患者さんの心に寄り添える医師を心がけています。