社会的つながりとテロメア、誰と飲むかが健康に与える影響

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困難を乗り越えたワインと、友情の一杯

長寿学会に出席するため、シンガポールを訪れています。
そこで、私の中で「キング・オブ・ワイン」と呼んでいる、ウォン氏に再会することができました。

東京のワインバーで偶然隣り合わせたことがきっかけで、「今度シンガポールに行ったら会いましょう」という約束を交わしました。

このような実現が難しい約束をしっかりと守ってくださる非常に誠実な方です。

案内いただいたのは、シンガポールの中心部にある、空に浮かんでいるような「67 Pall Mall」というワインクラブでした。
香港映画で成功を収めた方の邸宅を改装した場所だそうです。

ウォン氏が私のために選んでくれたのは、フランス・ジュラ地方にある鏡健二郎氏の「ドメーヌ・デ・ミロワール」でした。

鏡氏は、農薬を一切使わない不耕起栽培という、非常に過酷な道を選んだ方です。
岩だらけの急斜面をたった一人で耕し、困難を乗り越えて独自の価値を築き上げました。

海外で一人、模索しながら仕事をしている私のことを理解してくれているのではないかと感じられ、このワインは彼からの最高に粋なエールのように思えました。

「誰と飲むか」という重要な健康要因

昨今では「お酒は体に毒だ」という意見も聞かれますが、医学は物質論だけでは語りきれない部分があります。

少なくとも人間は、誰と共に過ごすかに大きく左右される生き物だからです。

オックスフォード大学などの大規模な研究(Int. J. Cancer)によれば、アルコール依存症の患者の場合、飲酒量が増えるほどテロメアが短くなることが示されています。

しかし興味深いことに、社会生活を営む人々を調べると、「適量飲んでいる人」のほうが「一滴も飲まない人」よりもテロメアが長いという結果もあります。

この医学的な矛盾は「BPSモデル」で説明できると私は考えています。
からだ(Biological)だけでなく、こころ(Psychological)、そして人とのつながり(Social)という三つの要素が調和して、初めて人は健康でいられるのです。

信頼できる人と笑い合う時間は、オキシトシンの分泌を促し、コルチゾールを下げ、炎症の受け取り方を変えてくれます。

同じアルコールでも、文脈が違えば生体反応も異なります。
医学はその背景まで捉える必要があるでしょう。

ちなみに、このワインのラベルには「Est-ce qu’on part ?(行こうか?)」「On verra bien.(行けばわかるさ。)」と書かれていました。

何を飲むかも大切ですが、やはり「誰と飲むか」が重要であることを再認識した、素晴らしい夜でした。

 

〔大友“ピエール” 博之〕

日本のみならずロサンゼルス、フランクフルト、香港、バンコクに拠点を持ち、個別化医療(precision medicine)を実践している。免疫栄養学に基づいた食事指導、ホルモン補充療法、運動療法を取り入れた治療で定評がある。

・ 医師 日本抗加齢医学会専門医 / 欧州抗加齢医学会専門医 / 日本麻酔科学会専門医
・ 西洋薬膳研究家、シェフドクターピエールとしても活躍中
渋谷セントラルクリニック代表
・ 一般財団法人 日本いたみ財団 教育委員
・ 一般社団法人食の拠点推進機構 評価認証委員/食のプロフェッショナル委員

・ 料理芸術や食の楽しみといった価値感を共有するシェフなどが集う日本ラ・シェーヌ・デ・ロティスール協会のオフィシエ
・ ワインにも造詣が深く、フランスの主要産地から名誉ある騎士号を叙任している。
 シャンパーニュ騎士団 シュヴァリエ / ボルドーワイン騎士団 コマンドリー /ブルゴーニュワイン騎士団 シュヴァリエ  

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