完全静脈栄養 かんぜんじょうみゃくえいよう

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完全静脈栄養とは

さまざまな疾患により食事が摂れない状態で、そのことが致命的となる患者さんに対し、静脈から輸液の形で栄養素を補給する栄養方法を「経静脈栄養法」といいます。経静脈栄養法には輸液を投与する部位によって、「末梢静脈栄養(peripheral parenteral nutrition PPN)」と「完全(中心)静脈栄養(total parenteral nutrition TPN)」の二つに分類されます。完全静脈栄養法(TPN)は、血管が太く血流量が多い鎖骨下静脈からカテーテルを挿入し、上大静脈から点滴で個々人の状態に合わせて調整した栄養素が配合された輸液剤を補給する方法です。長期にわたる場合や在宅静脈栄養を行う際には、特殊なカテーテルや埋め込み式カポートが用いられます。1日に必要なエネルギーをブドウ糖で投与するには400g以上が必要ですが、中心となる太い静脈への投与になっているため20~30%の高カロリー輸液の注入が可能で、1日に必要なエネルギー量である2000kcalという量も、完全静脈栄養法であれば十分にまかなうことができます。そのため長期間にわたり輸液による栄養管理が必要な際に用いられる方法で、2週間以上になる場合には通常、完全静脈栄養法が選択されます。経静脈栄養法は、消化管での消化吸収過程を経ず静脈へ直接投与されるため、投与した栄養素がほとんど確実に体内に届けられます。そのため、栄養管理を行う上で水分やエネルギー、各種栄養素の出納が明らかになるなど優れた点が多い栄養法です。しかし安易に長期間にわたり行うことは、さまざまな合併症のリスクや医療費が莫大となることにもつながる恐れがあるため、慎重に行う必要があります。

完全静脈栄養法の適応疾患

 米国静脈経腸栄養学会(ASPEN)のガイドラインでは、完全静脈栄養法が適応される症例は体内の栄養成分を維持するために「食べることができない」「食べてはいけない」また「食べる意思のない」患者。静脈栄養が2週間以上必要な場合、末梢静脈による管理が制限されている場合、多くの栄養素、あるいは水分制限が必要な場合、TPNのメリットがリスクを上回る場合。とされています。しかし、完全静脈栄養法の適応範囲は非常に広いため、適応には基本的に疾患や病態からみた、①十分効果が期待できる病態、②比較的治療効果が期待できる病態の二つに分類できます。以下に各々に該当する疾患と病態を示します。

十分効果が期待できる病態
a.短腸症候群、炎症性腸疾患(急性期)、小腸潰瘍、重症下痢、タンパク漏出性胃腸症などにより、腸管の消化吸収機能がない場合。
b.敗血症、多臓器不全、ショック、炎症性腸疾患(急性期)、重度熱傷、急性肝不全などにより、高度の消化管機能不全や麻痺がある場合。
c.急性膵炎(重度)の場合
d.消化管出血、消化管外瘻(急性期)、炎症性腸疾患(急性期)などにより、腸管の絶対安静を必要とする場合。
e.大腸全摘、胃全摘、食道癌手術、膵頭十二指腸切除などの、高度の手術侵襲を受けた場合。
f.イレウス(腸閉塞)、大腸癌、腹膜炎などで、腸管が完全に閉塞した状態の場合。
g.癌化学療法と放射線療法を併用している場合

比較的効果が期待できる病態
a.胃切除(一部)、大腸切除(一部)、肝切除(一部)、中等度熱傷、中等度外傷、急性膵炎(中等度)などにより、中等度の手術侵襲を受けた場合。
b.消化管外瘻の場合
c.炎症性腸疾患の場合
d.集中治療を必要とする栄養不良の場合
e.1週間以上、経腸栄養が使用できない場合

f.副作用の強い、癌化学療法を受けている場合
g.癌や炎症による腸閉塞の場合

完全静脈栄養の禁忌疾患

脳出血、脳梗塞後遺症、認知症、植物状態、各種神経疾患、頭頸部癌など、明らかに腸管の使用が可能である場合。7~10日以内に消化管の使用が可能な低い侵襲度の手術後において、腸管の使用が可能になった場合。
高カロリー輸液の危険性が、その効果を上回る場合。
癌の終末期など、治療効果がほとんど期待できない場合。

輸液製剤の種類

高カロリー基本液(高張糖電解質液)
高カロリー基本液は、糖質と電解質を組み合わせた混合溶液であり、各製剤で組成が大きく異なっています。通常、糖質はグルコースが主体となっていて、投与時の糖濃度は全水分量の20%以内に調整するようになっています。電解質については、投与必要な主要電解質としてナトリウム(Na)、カリウム(K)、塩素(Cl)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、リン(P)が含まれています。

アミノ酸製剤
アミノ酸製剤は、タンパク栄養状態の改善に必須とされている栄養剤です。通常は高カロリー基本液内に混注し、投与時には12%以下とする場合が多いです。肝不全用、腎不全用、術後侵襲用など、特定病態用のアミノ酸製剤も多く出回っています。

脂肪乳剤
脂肪乳剤は、必須脂肪酸欠乏症の予防と非タンパク熱量源の供給を目的として投与されます。一般的に大豆油を原材料としていることが多く、50%程度のリノール酸、10~20%の必須脂肪酸が含まれ、総量は50~500ml、エネルギーは100~550kcalとなっています。

ビタミン製剤
ビタミン欠乏によって生じる症状や疾病にはさまざまなものがありますが、特に体液喪失時、低栄養、感染症などでは、一般的にビタミン必要量が増加するため投与されます。また、静脈栄養時におけるビタミン欠乏で注意が必要であるのがビタミンB1欠乏で、代謝性アシドーシス、ウェルニッケ脳症(意識障害・運動失調など)が現れ、死に至ることもあるため十分に注意をします。

微量元素製剤
微量元素は、ビタミンと同じくごく少量で生体内の代謝に大きな役割をもっています。しかし、欠乏症が現れにくいため長期間にわたるTPN投与において、多くの欠乏症が出現しています。主なものとしては、銅、亜鉛、マンガン、セレン、クロムなどがありますが、特に亜鉛欠乏症の多いことが知られているため、最近は亜鉛が含有されているものがほとんどです。

完全静脈栄養時の合併症

 完全静脈栄養時には重篤な合併症が起こることがあります。カテーテル挿入・留置に関するものとして、誤穿刺・静脈血栓症・カテーテル塞栓などがあり、代謝上の合併症としては、糖代謝異常、たんぱく質代謝異常、脂質代謝異常、ビタミン欠乏症など、他にもカテーテル敗血症などの合併症が起こる危険性があります。これらを予防するには、適切な手技や慎重な衛生管理、正しい栄養管理を行うよう十分注意することです。

 

参考文献 

  • 臨床栄養学 アセスメント編    上田隆史・河村剛史・佐藤祐造 編  培風館

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