ナトリウムコントロール食 なとりうむこんとろーるしょく

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ナトリウムコントロール食とは

食塩のことを塩化ナトリウム(NaCl)と呼び、このナトリウムを過剰に摂取することが、高血圧や動脈硬化症などの循環器疾患、糸球体腎炎や腎不全などの腎疾患、肝硬変などの肝疾患に代表されるさまざまな疾病を引き起こす原因となります。ナトリウムコントロール食とは1日の食塩量が6g未満に設定された食事のことで、適応疾患によってたんぱく質コントロール食やエネルギーコントロール食に食塩制限が付加されることが多いです。食塩制限の程度は一般的に、軽度制限(食塩量7〜6g)、中等度制限(5〜4g)、高度制限(3〜1g)などに分けられます。2015年に改定された「日本人の食事摂取基準」ではナトリウムの摂取量の目標として、食塩相当量が18歳以上男性8.0g/日未満、18歳以上女性7.0g/日未満と示されています。一方で、平成27年国民健康・栄養調査の結果では、1日あたりの食塩摂取量の平均値が男性11.0g、女性9.2gという現状があり目標量の到達には至っていません。日本人の食文化には、漬物類や干物類など塩蔵による食品保存法があり、また味噌や醤油など塩を原料とした調味料も多く使用されているという背景があります。日常的に積み重ねられてきた味を、薄味へと変えることは難しいですが、引き続き食塩摂取量の減少が国民全体に必要な取り組みといわれています。国際基準では、WHO(世界保健機関)が定めた食塩摂取量5g/日が目標とされていますが、わが国では食文化に配慮した数値が目標として示されています。

適応疾患

1)高血圧

高血圧とは、動脈内側の圧力(血圧)が上昇した病態のことをいいます。血圧は心臓の収縮・拡張によって収縮期血圧と拡張期血圧があり、健常者では収縮期血圧が120mmHg、拡張期血圧が80mmHg程度です。高血圧は、明らかな原因が特定できない本態性高血圧が全体の90%以上を占めています。高血圧は単に血圧が上昇するだけではなく、脳出血や脳梗塞、心筋梗塞、腎硬化症などさまざまな臓器に合併症を引き起こす要因となります。食塩摂取量は高血圧と強い関係性があり、食塩摂取量が多いと血圧は上昇します。そのため、治療の原則は減塩が何よりも優先されます。その他、肥満や喫煙、過度の飲酒などの生活習慣の修正が併せて行われます。これらの治療で改善が見られない場合は、降圧剤による治療が開始されます。食塩摂取量は、高血圧治療のガイドラインに示されている6g/日に制限し、肥満のある場合はエネルギー制限を併せて行います。

2)虚血性心疾患

心臓の取り囲む冠動脈が何らかの理由により狭窄・閉塞し、心筋に十分な血液が送られなくなると、心筋の機能の低下や障害が起きることがあります。この病態を虚血性心疾患といいます。冠動脈の狭窄・閉塞は動脈硬化が進んだことによるもので、動脈硬化のリスクとなる高コレステロール血症や糖尿病、高血圧、腎疾患などとの関連がみられます。治療や栄養管理は、基本的にはこれらの疾患に合わせたものとしますが、残存している心機能によっても異なります。心機能が低下している場合は、心不全を予防するため食塩や水分の摂取に注意が必要となります。急性期には、食塩摂取量を7g/日程度に制限を行うことが多いです。安定期には二次予防のための食事療法として、食塩摂取量を6g/日未満に制限し、飽和脂肪酸やコレステロールなど脂質の制限や、血糖値の管理も併せて行います。

3)うっ血性心不全
  
心臓のポンプ機能が低下し、全身に必要な血液を拍出できない状態の総称を心不全といい、肺または全身の静脈系にうっ血(血液の貯留)を伴っています。原因は心筋梗塞などさまざまであり、急性心不全と慢性心不全に分けられます。栄養食事療法が重要となるのは、主に慢性心不全です。食塩の過剰摂取は、循環血流量を増加させ心不全を悪化させるため、原則として食塩摂取量の制限を行います。摂取量の目安は、重症度によってⅠ~Ⅳに分類されているクラス(病期)によって異なります。クラスⅠでは10g/日、Ⅱでは8~10g、Ⅲでは6~7g、Ⅳでは3~5gとされています。

4)動脈硬化症
 
動脈硬化は、動脈壁の内膜や中膜の肥厚、変性により、動脈壁の弾性が低下した状態をいいます。大きな血管に生じる粥状硬化と、細かい血管に生じる細動脈硬化があります。動脈硬化は、生活機能を保ちながら無症状で進行していきます。予防手段としては、糖尿病、脂質異常症、高血圧、メタボリックシンドローム、習慣性喫煙症などの動脈硬化の成因に対する予防と治療です。栄養管理として、動脈硬化の成因である疾患に対する食事内容と食行動の改善を目的とした食事療法を行います。食塩摂取量については、弾性が低下した血管への負担を考慮した観点から、高血圧を予防するために6g/日とします。

5)糸球体腎炎(急性・慢性)
 
急性糸球体腎炎は、多くの場合は細菌感染により血尿、たんぱく尿、高血圧、糸球体濾過量(GFR)の低下、乏尿、浮腫が急激に現れる症候群です。治療としては、安静、減塩、降圧療法などの対症療法により大部分が自然治癒します。減塩については、乏尿期に浮腫や高血圧の予防のために食塩摂取量を0~3g/日に制限します。回復期、治癒期になれば、3~5g/日とします。慢性糸球体腎炎は、たんぱく尿や血尿が持続的に現れ、浮腫や高血圧、腎機能低下が認められる病態です。腎臓からのナトリウム排泄が遅延しているため、体液の貯留や高血圧を起こしやすくなっています。腎機能、たんぱく尿の程度、高血圧の有無などにより食事療法は異なりますが、十分なエネ
ルギー摂取とたんぱく質制限、食塩制限が基本となります。食塩摂取量は、6g/日以下を原則とし、高血圧や浮腫があるときは5g/日以下を目標とします。減塩では食欲が落ちないように、酸味や辛みの活用や、だしの旨味を利用するなど工夫が必要です。

6)ネフローゼ症候群

ネフローゼ症候群は、何らかの糸球体疾患によって1日3.5g以上の尿たんぱくが持続し、そのために低たんぱく質血症が起こる症候群です。原因疾患は多数あるため、正確な診断と特定が不可欠です。食事療法については糸球体腎炎と同じく、十分なエネルギー摂取とたんぱく質制限、食塩制限が基本となります。浮腫がある場合は、6g/日以下の食塩摂取量の制限を行い、高血圧がある場合は6g/日未満の食塩摂取量の制限を行います。

7)慢性腎臓病(CKD)
   
慢性腎臓病(CKD)とは、GFR(糸球体濾過値)で表される腎機能の低下があるか、もしくは腎臓の障害を示す所見が慢性的に持続しているものの全てをいいます。CKDは、世界的に増加している末期腎不全の予備軍として、透析患者数や心血管疾患の減少の観点からその対策が緊急の課題となっています。CKDは、GFRの数値によって1~5のステージ(病期)に分類されステージ5では腎機能の低下が著しく、末期腎不全の病態となります。食事療法としては、たんぱく尿抑制のためのたんぱく質制限、高血圧、浮腫、心不全、肺水腫などを予防するための食塩制限などが行われます。CKD患者の食塩摂取量の基本は6g/日未満とし、体液の過剰があればより少ない量に制限します。ステージ3~5では3g以上6g未満に制限しますが、逆に塩分喪失を伴いやすいため、3gを制限の下限とします。

8)肝硬変(非代償期)

肝硬変とは、肝機能不全状態と門脈圧の亢進症状を示す肝疾患の終末像です。代償期から非代償期へ進行すると、肝性脳症や腹水などに対する治療が必要となります。特に、腹水に対しては食塩摂取量の制限が必要となるため、5g/日前後に制限を行います。

参考文献

  • 栄養科学シリーズ NEXT 臨床栄養学 第2版   武田英二・中坊幸弘・竹谷豊 編    講談社
  • 栄養ケア・マネジメント論 経済学からみた栄養管理    福井富穂 編著   化学同人
  • 今日の病態栄養療法(改定第2版)      渡辺明治・福井富穂 編 南江堂
  • 新臨床栄養学 第2版       馬場忠雄・山城雄一郎 編 医学書院

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