酒さとピロリ菌

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【DR大友の視点】

痛みを治すことが生業のお医者さんだったDR大友に転機が訪れたのはアラフォーになった頃でした。
それまで色白美白が売りだったお顔が大人ニキビと赤ら顔になってしまったのです。

イタリア出張にアメリカ出張が続いて、お疲れニキビかと思っていましたが、一向に良くなる見込みがありません。

そして下された診断は酒さでした。

酒さってどんな病気?

酒さとは、病名に「酒」という文字が入っている通り、お酒を飲んだような赤ら顔と大人ニキビが混じった慢性的な皮膚の病気です。
酒さは男女ともに罹り、子供でも大人でも罹りますが、女性にやや多くみられ、中高年以降に診断されることが多い病気です。
顔がほてり熱感を持つ赤ら顔が特徴で、特に頬が赤くなり、気温の影響を受けやすいことが知られています。

一方、身体の他の部位には変化はなく、熱なども出ないことが知られています。
初期には一時的に赤ら顔が見られますが、毛細血管が拡張することで次第に赤みが引かなくなり、数ヶ月後には頬や額、顎などに左右対称にはっきりとした赤みが見られるようになります。重症になると、赤くなるだけでなくニキビのようなブツブツができたり、鼻にボコボコとした瘤のような隆起が生じたりします。

酒さと診断されたものの、抗生剤のクリームを塗ってもレーザー治療をしても改善しないことにイライラしていたところ、旧知のロサンゼルスにある医大(UCLA)の教授に診察してもらうことになりました。彼女のセオリーは80%以上の酒さ患者を救っていました。

その時に教授が重要視していたのがピロリ菌感染の有無です。

今回はピロリ菌が酒さとどんな関係にあるのかを調べてみることにしました

ピロリ菌ってどんな菌?

ピロリ菌はに感染する一般的な細菌で、一説によると世界中の約半数の人はこのピロリ菌に感染しているとも言われています。特に衛生的な環境の整っていない地域に住んでいる人では、感染している人の割合が高いことが分かっています。

通常、胃の内側には胃の粘膜が張り巡らされており、強い胃酸から胃自身を消化してしまわないよう守っていますが、ピロリ菌はこの粘膜の働きを弱らせる作用をするため、胃の粘膜が傷つき、胃潰瘍を引き起こします。

この他にもピロリ菌は、胃の炎症が続くことで胃もたれや食欲の低下をもたらす慢性潰瘍の原因にもなります。
さらに、ピロリ菌は胃がんとも関係していることがわかってきました。

このようにピロリ菌は様々な病気の原因となり、腹痛や腹部膨満感(お腹が張る感じ)などが生じることもありますが、実は多くのピロリ菌感染者は無症状で感染に気付かないまま生活を続けています。

酒さとピロリ菌の関連とは?

酒さの原因を解明するための研究は多数行われていますが、その結果は研究によって異なるため、様々な疑問点が浮かび上がっています。その中で特に研究者の関心をそそり、議論となっているものの1つに、ピロリ菌があります。

ピロリ菌と呼ばれる病原菌ヘリコバクター・ピロリが皮膚の病気と関わっている可能性が注目されているのです。今回は、酒さの原因について、主にピロリ菌に焦点を当て、海外の論文に基づいてご紹介していきます。

酒さとピロリ菌の関係:いくつかの研究が示す異なる結果

しかし、NRSの研究では、ピロリ菌に感染している患者さんの数は、酒さのある人よりも酒さのない人の方が多いというデータが示されています。
また、アメリカのある研究チームは、酒さの症状があり、かつピロリ菌に感染している44人の患者さんに対して、ピロリ菌に有効な抗菌薬を2週間投与するグループと、プラセボ(偽薬:抗菌薬の成分は含んでいない)を2週間投与するグループで治療効果を比較するプラセボ比較試験を行ったところ、治療から2ヶ月後、両グループともに酒さが改善したという結果が報告しています。つまり、ピロリ菌の治療薬とプラセボの、酒さの改善に対する有意な差はなく、この研究では、ピロリ菌の感染が酒さの原因になっているとはいえないと結論づけています。

DR大友の印象では重症の患者さんであればあるほどピロリ菌の検査をすると陽性を示す印象があります。また酒さのためだけではなく、胃がんなどの疾患を予防するという観点からも除菌を強くお勧めいたします。

酒さとピロリ菌に関連があることを支持しているラリー・ミリケン医学博士(テュレーン大学医学部名誉教授)は、ピロリ菌の除菌治療によって酒さが改善した患者さんを診たことで、酒さとピロリの関係に偶然気付いたそうです。

ピロリ菌の除菌はやはり酒さの症状改善に効果あり?

アメリカの研究チームと同時期にトルコの研究チームは、酒さの患者さんにおいて、ピロリ菌を除去することで皮膚の病変が改善するかどうかを調べていました。この結果、ピロリ菌の標準治療である抗菌薬の投与(オメプラゾール30mg 1日2回、クラリスロマイシン500mg 1日2回、メトロニダゾール500mg 1日2回)によって、酒さが十分に改善したと報告しています。
トルコの研究者たちは、ピロリ菌は酒さの原因となり、ピロリ菌の除菌は、酒さに対しても有効な治療だろうと結論づけています。
また、別の研究では、酒さの患者さんは88%の確率でピロリ菌に感染しているのに対し、消化不良などの胃腸障害の症状はあっても酒さや胃粘膜の病変のない患者さんでは、ピロリ菌の感染率は65%で、この2つのグループの間には有意に差が見られています。そしてピロリ菌の除菌治療2週間後には、97%の患者さんにおいてピロリ菌が検出されなくなり、酒さの症状は61人中51人に改善が見られたと報告しています。
さらに、最近行われたスペインの研究では、酒さ、特に赤い隆起や吹き出物を引き起こすような重症の大人ニキビを併発しているタイプの酒さにおいて、ピロリ菌の除菌治療は有益であるとの報告があります。

結論として酒さの治療のためにピロリ菌の除菌はした方がいいの?ということになると思いますが、酒さとピロリ菌の関連は研究によって証明されることもあれば、証明できないこともあり、この2つの関連性については論争が続いています。

DR大友の意見としてはピロリ菌だけが原因ではないので除菌だけではよくならないのではないかと考えています。

ただロサンゼルスにある医大の教授が語っていたようにピロリ菌は酒さの原因の一つだと思います。
他にも原因があるのであればそれは改善しないと良くならないでしょうね!

 

〔大友“ピエール” 博之〕

日本のみならずロサンゼルス、フランクフルト、香港、バンコクに拠点を持ち、個別化医療(precision medicine)を実践している。免疫栄養学に基づいた食事指導、ホルモン補充療法、運動療法を取り入れた治療で定評がある。

・ 医師 日本抗加齢医学会専門医 / 欧州抗加齢医学会専門医 / 日本麻酔科学会専門医
・ 西洋薬膳研究家、シェフドクターピエールとしても活躍中
渋谷セントラルクリニック代表
・ 一般財団法人 日本いたみ財団 教育委員
・ 一般社団法人食の拠点推進機構 評価認証委員/食のプロフェッショナル委員

・ 料理芸術や食の楽しみといった価値感を共有するシェフなどが集う日本ラ・シェーヌ・デ・ロティスール協会のオフィシエ
・ ワインにも造詣が深く、フランスの主要産地から名誉ある騎士号を叙任している。
 シャンパーニュ騎士団 シュヴァリエ / ボルドーワイン騎士団 コマンドリー /ブルゴーニュワイン騎士団 シュヴァリエ     

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