ワインの香りは脳機能の導火線

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ワインと記憶をめぐる体験

ボランジェのヴィエイユ・ヴィーニュ・フランセーズをはじめ、グラン・ダネやR.D.を一度に楽しむ特別な会に参加しました。

久しぶりに私のグラスに注がれたヴィエイユ・ヴィーニュ・フランセーズは、時間が経つごとに熱を帯びるような生命力を感じさせ、心を打たれました。

これはフィロキセラ禍以前のブドウから造られているためだと思われます。そうしたことを考えているうちに、10年前に訪れたボランジェの記憶がよみがえりました。

現地では、古木が斜めに伸びる畑や「BOLLINGER」と刻まれた石碑、フィロキセラ禍以前のブドウ樹が残るショード・テールとクロ・サン・ジャックの2つのグラン・クリュ区画、唯一の樽職人による木製樽が並ぶ作業場の音や香り、シャンパーニュのエレガンスを体現するランチルームなど、印象的な光景が広がっていました。

中でも最も記憶に残ったのは、「真に価値あるものを作り続けるために家族経営を選んでいる」というマダムの言葉です。これこそがボランジェの本質であり、この一本を通じてボランジェが守り抜いてきたもの、そしてそこに宿る土地と人の魂を改めて感じることができました。

ワインの香りと脳科学

ワインの香りが10年前の記憶を瞬時に呼び覚ました理由について、脳科学的な観点から考察します。

香りは、脳の奥深くにある海馬と扁桃体へ直接届く、数少ない感覚です
ワインをグラスに注いだ瞬間、ボランジェで過ごした時間が鮮明に思い出されたのは、香りが記憶と感情を同時に呼び起こすためです。

海馬は「いつ・どこで・誰と」といった記憶を保管する役割を担い、扁桃体は感動や感謝などの情動をタグ付けしています。

つまり、ワインの香りは人生の美しい記憶を呼び起こす脳機能の導火線であると言えるでしょう。

〔大友“ピエール” 博之〕

日本のみならずロサンゼルス、フランクフルト、香港、バンコクに拠点を持ち、個別化医療(precision medicine)を実践している。免疫栄養学に基づいた食事指導、ホルモン補充療法、運動療法を取り入れた治療で定評がある。

・ 医師 日本抗加齢医学会専門医 / 欧州抗加齢医学会専門医 / 日本麻酔科学会専門医
・ 西洋薬膳研究家、シェフドクターピエールとしても活躍中
渋谷セントラルクリニック代表
・ 一般財団法人 日本いたみ財団 教育委員
・ 一般社団法人食の拠点推進機構 評価認証委員/食のプロフェッショナル委員

・ 料理芸術や食の楽しみといった価値感を共有するシェフなどが集う日本ラ・シェーヌ・デ・ロティスール協会のオフィシエ
・ ワインにも造詣が深く、フランスの主要産地から名誉ある騎士号を叙任している。
 シャンパーニュ騎士団 シュヴァリエ / ボルドーワイン騎士団 コマンドリー /ブルゴーニュワイン騎士団 シュヴァリエ  

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